夏の独身者企画として全く個人的に「新刊10冊読もうキャンペーン」を開始したのは8月11日、その後一日一冊のペースで読み進め、本日2020年8月22日、成満した。
何でこんなことをしようと思い立ったかというと、ぼくが他人の作文を書く商売をしている手前、昨今の文章とはどんなものか、広く知っておく必要がある すなわち市場調査である。
たとえば、ぼくが「今風」と思って使っている文字は、もしかしたら「旧仮名遣い」になっているかもしれない。言葉のチョイスが死語になっているかもしれない。ま、そこまでオーバーなことは無かろうけれど、そういうことがあったら改めなきゃいけないでしょ。
現代小説を最後に手銭で買ったのはたぶん2010年くらいと記憶している。『1000の小説とバックベアード』という本で、それ以外は、友だちが貸してくれた『コンビニ人間』なる本を読んだくらいだ。両方とも中身は覚えていないしさしたる印象も残っていない。ぼくは読書に関して滅法不感症である。こうした性分ともこの際きちんと向かい合うべく、10冊行を思い立った、というところだ。
10冊行は市場調査の意味合いがあるのだから、最新刊でなければならない。ルールとして2020年に文庫本の初版が出た本を選んだ つもりだったが、二つばかり違った。このへんをしくじるあたりがいかにもぼくらしい。
以下エントリー作品。
- 『君と夏が、鉄塔の上』賽助(2018.5.25)
- 『たゆたえども沈まず』原田マハ(2020.4.10)
- 『さよなら世界の終り』佐野徹夜(2020.6.1)
- 『人間に向いてない』黒澤いずみ(2020.5.15)
- 『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくり返る』零真似(2020.7.22)
- 『満月の泥枕』道尾秀介(2020.8.20)
- 『天を灼く』あさのあつこ(2020.8.20)
- 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』渡航(2019.11.24)
- 『合理的にあり得ない』柚月裕子(2020.5.15)
- 『祈り』伊岡瞬(2020.6.10)
※番号は読んだ順番。かっこは文庫本初版出版年月日
個々の感想はめんどくさいからよそう。
全部おもしろかったっすよ。
まあ、この中で特に面白かったのを三つあげるとすると、4、7、9……というところでしょうか。出だしが良かったのは1、最後がよかったのは7、登場人物が良かったのは6、空気が良かったのは2。
以下所感。
ぼくが前に小説を読みふけっていたのは20年くらい前で、古い海外作品が中心だったが、日本のも、原田宗典とか村上春樹の一部であるとか、そういうのを手に取っていた。
あの頃の小説の印象は、学生だのOLだのどこにでもいる「標準的主人公」が「非日常」に吸い込まれて「是か非の決着に落ち着く」というのが定番だったように思う。主人公の設定は、誰にも共感されやすい「普通の人」が多く、時代背景的にまだまだ格差社会の大きくなかった頃だったような気がする。
そこいくと、昨今の物語は、主人公の「どうしようもない生きづらさ」から始まって、その因果で話が膨らみ、最終的にストーリーは一つの落ち着きを迎えるんだけど、もともとの生きづらさは変わらず、むしろ自己同一性にまで昇華している、というのが定番でしょうか と思ったけど、万ある本の中のわずか10冊読んだくらいで全ては語れませんね。
ラノベの文章は、どれもシャープネスが効いていて、若い方が書いていると思うと、多分にフルスロットルなのかなと思う。
一人称の地の文はめっちゃシャープなのに、かぎかっこ(台詞)は朴訥としているというケースが散見される。アウトプットと腹ん中は表出が違って当然 というのは分かるけど、それでも大きすぎるギャップはもはや教養レベルまで達しているのじゃないかと思うほどだ。
あと、章立てで一人称地の文のキャラが変わるケースで、馬鹿キャラ知的キャラ等の書き分けが口調と知性には及んでいるものの、ポエットな部分では同じじゃんっていうのも、あった気がする。
時代小説とかサスペンスものというのは、やはり独立した括りになっているだけに分野の成熟度が高く、どれも楽しく読めた。
ファンタジーがらみのやつは、夏祭りの花火みたいに最後にでっかい展開が巻き起こるのが定番だけど、何かもうドバドバすぎて意味不明だったり、かぎかっこが続いて誰がしゃべっているのかわからなくなったりと、残念なのが多かった、ていうか多すぎた。これは問題ですね。
ほかにもいろいろ思ったことはあるけど、まあいいでしょう。とにかく、ぼくが現在書く文字は旧仮名遣いにおちてはいなかったし、言葉回しも死語オンパレードってことも無いのが分かったからよかった。
面白かったのは、20年くらい前の小説と今の小説の違いがとてもはっきり分かったこと。長いこと読まずにいたからコントラストが効いて感じられるのかもしれない。敢えて何年かおいてこういう試みをやるのもいいかなあと思った。
あんまり読書を習慣にしたくない。
だって、今回楽しかった。興奮した。これが日常になっちゃうなんてもったいないと思った次第である。
さて、明日からは自分の小説を書いていこう。