去る3月4日、新作短編小説をkindleでリリースしました。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BXGXF2TK
『学園コメディ無責任姉妹』シリーズの7年ぶりの続編である。「スピンオフ」と言った方が正しいかもしれないし、「原作者による二次創作」というべきかもしれない。ジャンルはナンセンスコメディ。
この作品を書こうと思い立ったのは半年ほど前、郷里の友人N氏が「続編を書け」と言ってくれたことが大きい。あと、原作の販売数が全然出なくなっていた 要するにてこ入れである。
頑張って書いたのだが、原作ほどのボリューム(原稿用紙400枚)にならず、わずか70枚程度で収まってしまった。
「物足りないなあ」としょんぼりしていたところ、地元・南日本文学賞の公募情報が目に入った。
応募して……みよっかな?
それが「まさか」のはじまりであった。
「んな馬鹿な」→「粋なもんだ」
南日本文学賞は、鹿児島の地方紙「南日本新聞」が1973年から開催している文学賞で、応募数こそ多くないが、公開選考会を行ったり、受賞作を県下30万部の新聞紙面に刷ったり、豪気な賞である。
選考の傾向はいかにも地方文学賞らしく、純文学的な、王道・正統派の作品が多い。公募要件に「純文学を募集」とはないけど、最終選考者が芥川賞作家・荻原朔太郎賞作家ら3人だったりすることから、結果は自然とそっちをむく。
そんなら今風のコメディはだめじゃん。
それが普通の考え方だ。
だが、先述の友人Nとの会話で
まかりまちがって最終候補まで行けば、「あの有名作家も読んだ無責任姉妹」ってことにならね?
たしかにそうなれば最高のテコ入れとなるだろう。
しかし……それはあまりにも大層な夢物語だ。2018年度に一度最終選考に残った身としては、うすうす分かる。そう、キーワードは島・老婆・貧乏。おおよそここからはずれちゃぁならねえのだ。
ところが、誰が言ったか
迷わず行けよ、行けばわかるさ!
不惑を半ばも過ぎれば、本当に惑わなくなる。
不純な動機・ダメ元・いきおいで応募した。
そしたらなぜか、小説部門の最終候補3作に残った。
「「え? まじで?」」
「「んな馬鹿な!」」
他の2作は歴史小説と現代小説で、地元鹿児島を扱っており、南日本文学賞の趣旨と傾向にフォーカスしていた。
そこになぜか、わがナンセンス系学園コメディが混ざっている。
なんとも珍妙な光景である。
南日本新聞社サンも、粋なことをするもんだ。
最初はそう思った。
が、時間が経つにつれ、すんごい場違い感がこみ上げてきた。
まるで紋付き袴・タキシードの間に「くいだおれ人形」の恰好で立たされた気分である。
「いっしょにすんな」
「紙面飾って何がやりたいのかタココラ」
などなど、お叱りの言葉が空耳された。
ひとり戦々恐々としていると、やがて妄想じみた推測が湧き立ってきた。
もしや、新聞社様は、文学賞の変革を図っているのではなかろうか。昭和・平成・令和と時代はうつり変わっていくのに、いつまで変わらず、ある意味でカビ臭くなっている選出傾向を打ち破るために、最初の一穴として最終候補にナンセンスコメディをぶちこんだのではないか。むろん、変えちゃいけないこともある。だから比重的に2作はオーソドックスなものを配置したのじゃないか……。
ぼかぁ新聞社サンの秘めたる志の一片を受け、最終選考に臨むのかな、フッ……('A`)
自分勝手な使命感で違和感を払拭する。その一方で「さすがになんぼなんでも受賞はないだろw」と、落選を確信していた。
まあ、この時点で、当初たくらんだ「あの有名作家も読んだ無責任姉妹」というシチュエーションづくりは達成確実となったわけである。だから細かいことは「まあいっか」と思っていた。
公開選考会「あゝ、平行線」
そして迎えた3/4公開選考会。
南日本新聞社内の広いホールで開催された。
ステージに先生が三人座っていて、客席はまばら。
結論から言うと、わが『#切腹女子』は落選で、はなっから論外の扱い。
先生方のご指摘を並べると……
A先生
「想定していた南日本文学賞の応募ジャンルと違ってびっくりした」
ええ。ぼくもびっくりしてるんです。でも残したのは主催者さんですよ。
B先生
「浅い。安っぽい。キャラがキャラになっている」
ごもっともです。軽めでキャラキャラしたものを書こうとしたので……。
C先生
「アニメ的な印象。面白くて笑ってしまうところがあった。都合が良すぎるところもあったが……」
これはうれしい。コメディは笑わせてなんぼ。「都合がよい」は、たしか前にも頂戴したお言葉。
落選に際し、某先生からこんな言葉があった。
いままで自分が書いてきた小説が純文学だったので、その中で判断せざるを得なかった。もし、コメディなり歴史物なり、特定のジャンルの専門家が審査したら、違う判断になったかもしれない。
これを聞いてぼくは「え? でもそれってさ……」と戸惑った。
というのは、ぼくの原稿を候補に残したのは新聞社さんだ。
その作品を先生側がジャンルの段階で「自分には判断できん」「主観で判断する」と言っちゃうと、新聞社さんの「コメディもよくありませんか?」というプッシュは、あたまっから正当な審査の対象外にされたようなもの。
ということは、仮に今後、新聞社さんがコメディを残し続けても、毎回こうなる可能性がある。
だとすると、例の「秘めたる志」は、先生と接点を見いだせず、永遠の平行線になっちゃうのではないか……。
ああしかし、ぼくに何が言えるだろう!
宇宙のどこかを探せば、骨の髄まで純文学な作家先生もうなずくナンセンスコメディが存在するかもしれないではないか。
ただぼくに著せないだけで……。
落選は承知してたとはいえ、何か虚しく、わたくしはとぼとぼと選考会をアトにしたのでした。
おしまい<('A`)>
*
というわけで、短編小説『#切腹女子』は落選し、小説公開選考に次いで行われた詩の選考の終わりを待たずして、Amazon kindleで発売されたのであります。最近のAmazonさんは仕事が早い!
今後とも、南日本新聞社様には、コメディなり、ラノベなり、良作があれば最終候補に残していただきたいと切に願う。先生がそっぽを向き続けても、残し続けてほしい。ぼくがまた書くかどうかは別として。
以前ニュースで、コロナ禍以降小説公募の応募数が増えているという記事を読んだ。また、ネット小説が流行し、昔のように「活字離れ」ってことはなく、むしろアマチュアの書き手は多いといわれている。
にもかかわらず、本賞の応募数は、非常に少ない。
どうもさびしい。
鹿児島の文芸の一番を決めるのもいいけど、地元でユニークな人材を発掘し、幅広い価値観を切りひらいていく、明るいイベントであってほしいと思うのである。
で、「あの有名作家もお読みになった学園コメディ」を読んでください!
原作もあるよ
(`A')//関連記事です。