表題の興行が2024年5月26日(日)に鹿児島市の黎明館で催された。主催は落語を愉しむ会。『ゆるいと亭』様のお席である。
三遊亭兼好独演会@黎明館
— 小林アヲイ (@IrresponSister) 2024年5月26日
「蛇含草」仲入でモチが売れそうな仕草の妙▼「たがや」昭和名人掛け声さまざま。ラストの現実エピの複数挿入は賛否あるか。▼抽選会&仲入り▼「崇徳院」若旦那が妙に色っぽい。もう少し見たかった。
抽選会でサイン🎯ゲット。噺家さんのサインははじめてだ。#ゆるいと亭 pic.twitter.com/jtwb6vXuXe
同日同館は鹿児島県美術協会「第70回県美展」の最終日で、県民いっぱいのお運び。そちらを拝観し、友人知人の作品をいくつか見せていただいたあと、独演会の会場に入った。
事前にSNSで完売御礼と伝えられていた通り、席はびっちり。なんだかいつもより会場が重く感じられたのは、人数のせいだけじゃなく、黒髪頭の割合が増えたからじゃないかと思う。いつもは白髪頭が多いだけに。若いお客が増えた模様だ。
ゆるいと亭さんは15周年。毎回顔づけがよく、木戸銭もお安い。間違いなく市中の人気席である。席亭のあいさつも、いつもとっても感じが良い。おちゃめでかわいらしい。
さて高座を振り返る。
▼一席目「蛇含草」
自己紹介とご挨拶を兼ねた枕は、出だしからバンバン受けていた。テンポが速いが聞きやすい。ところどころ風刺が効いて「フフ」となる。好楽師匠が自分の公演の楽屋入りで一般人に間違えられたエピソードは大ウケだった。
これがつぼになったのか、以来、この日のお客さんは終始大いに笑っていた。最後あたり、キンキンした声を立てて笑う人もいた。実際ウケているのだが、それ以上に、そういう気(け)のお客さんが多かったんだと思う。いいことです。みんな免疫力が上がって寿命が延びた。
さて本題。八つぁん(熊だったか?)が隠居宅を訪れ、蛇含草をもらうくだりののち、餅を50個喰う展開に。その時の食べ方の形態模写が秀逸で、繰り返されてもくどく感じず、むしろずっと見ていたいくらいだった。焼き立てアツアツの餅をヤケドしないように右左の手で素早く持ちかえる仕草。手と顔の動きで餅が柔らかく伸びているように見せる技術。みごとである。
▼二席目「たがや」
夏には早いが花火の噺。最初に掛け声について。「たまや」「かぎや」の花火の掛け声。歌舞伎・落語の掛け声。歌舞伎は屋号だが、落語の場合は師匠の住まいや、やってほしいネタを叫ぶという。志ん朝「矢来町!」など。
志ん生のが「日暮里たっぷり!」というのは初めて知った。
噺は徐々にネタの核心に近づいていく。花火の本来の楽しみ方として、お大尽が芸者と差しつ差されつするシーンを解説する仕方噺が非常に良かった。屋形船が夜の川面を滑っていく柔らかな水くぐる音が聞こえるようであった。
「たがや」がはじまり、トントンと噺が進んでいく。かなり早く進められるので、「これは何かあるな」と思っていたら、やはり。
最後のくだりで、現実エピソードがたびたび挿入されるという奇策が演じられた。剣難に遭うたがやに危機が迫ると「実はうちもそうなんですよ。昔、うちのおじいさんが」「おばあさんが」「妻が」といった具合で、何かあると唐突にエピソードが差し込まれる。これが4つくらいあった。
これに関しては、たがやという噺のいよいよ緊張が募っていく流れを、いちいち断ち切ってしまうようで、かえって如何なものかと思った。挿まれるエピソードが面白いだけに、余計それを感じられた。
<仲入り>
ゆるいと亭15周年抽選会で、師匠のイラスト入り直筆サインをいただきました。家宝です。
▼三席目「崇徳院」
冒頭、「長くやりません。短くやります。あんまり長いとマイク切られるので」と、ちょっと前の環境省の対応問題に関する風刺があって、会場がドカッと受けた。この日のお客さんは先述したようによく笑ったが、それだけでなく、みな時事ネタへの反応が異様に早かった。師匠が口の端にちょろっとこぼしたようなことにも、即座に反応していた。ぼくなんぞはちょっと経ってから「ああ、あのことか」と。頭の回転のいいお客様。よく気付きよく笑う。
さて「崇徳院」。仲入り前からの流れを考えたら、意外なネタが来たと思った。「たがや」がアレンジたっぷりだったので、今回もそう来るかなと思った。きっとオリジナリティあふれる半創作的落語になるのでは?と。
ところが、あっさりおわった。なにかこう、普通に演じられて普通に終わった。「え? もう終わり?」感が強かった。宣言通り本当に短くやった感じだ。
しかし確かめると、しっかり45分語られていた。つまり「短く感じるくらい素晴らしかった」と言える。ぼくは飽きっぽいので、だいたいにおいて途中で時計を見てしまう。それがこの「崇徳院」は一度もなかった。のめり込んで聞いていました。
以上三席、枕を含めて振りかえると、話の軽妙さ、口跡、感情移入。何もかもすばらしい。ちらっとのぞく毒がよい。一席目の餅喰いの仕草、二席目の仕方噺など、スペクタクルな見せ場に強く惹きつけられた。ただ、三席目はそういったものが無かっただけに、ぼくには弱く感じられた……かもしれない。
登場人物のデフォルメと現代的なエンコードの効いた「いま風の人気噺家」らしい噺家さんの一人だと思った。もっとも、たがやの枕で演じられた芸者や、崇徳院の若旦那のつやのある仕方を考えると、繊細な造形もたのもしく、女性の出てくる噺なんかは相性がよさそうだ。「紙入れ」なんかを見せていただきたいと思った。