プロレス観戦した。20年ぶりくらいだと思う。結論をいうと、「おもしろかったです」。
観戦記を記す前に、ちょっと前置きを。
この20年の間にプロレスは劇的に変化した。80~90年代のプロレスは、全体を眺めると、壮大なイデオロギー対立のアングルだったといえる。すなわち、ショーとしてのプロレスか、格闘技としてのプロレスか、引いては「見世物」か「真剣勝負」か、であった。
それがある時、完全にショーであると(つまり台本があると)、某元レフェリーが暴露した。当初プロレス団体は反論したり、沈黙を守ったりしていたが、いつの間にか沙汰やみになり、気が付けば観客も業界側もそれを前提にするようになっていた。いまや「ショーに割り切ったプロレス」は当たり前。下火だったプロレス人気は徐々に盛り返しつつある。
……と、小林は現況をこのように理解している。
そして本日9月9日。
試合がどうこうというより、プロレスが現在どのように行われているか、それを楽しみに興行見物に行った。会場は鹿児島市内某所。300人程度収容の小ホールである。
全部で6試合。全て4人か6人のタッグマッチ。
第1試合のフレッシュマンのタッグマッチはなかなか良かった。ひじ打ち、飛び蹴り、抱え投げ。狭い会場で大きな投げを打つと、バーンと大きな音が響く。プロレス観戦の醍醐味はまずこの音で、はじめて観戦する人はとてもびっくりする。「すごいなー」「いたそうだなー」「うわ、それでも立ち上がった!」……と思うわけだ。実際、初見の客が多かったのだろう。最初からやんややんやの喝采で、誰かが勝って、誰かが負けて、ふー、終わった、となった。
第2試合、ここでもお客さんは大喜びで、やんややんやである。
第3試合になり、やんやと喜んでいたお客さんは……ちょっと静かになった。疲れてしまったようだ。
なにかこう、空気が冷めだした。
どの選手も動きが良く、タフですばやくてパワフルである。そして相変わらず投げ技で大きな音がする。
しかし、観客は冷めたのである。
拍手や手拍子をしたり、コールを繰り返すのも、だんだんしんどくなってくる。全試合を振り返って、お客のボルテージは第2試合がピークだったと思う。
あとの反応は意趣返しの場合がほとんどだ。
たとえば、第4試合は地元出身の選手がいて、ちょっとコミカルな、お笑いを交えた試合だったから、お客さんは笑ったりして少しリングに集中力を取り戻した。でも緊張感という意味でいったら、確実に「ゆるん」となった。
第4試合の後に、15分の休憩。
コミカルプロレスでお客さんをゆるめたまま、休憩に入った。
第5試合は六人タッグで、メンツ的にはこの日の「役者そろい踏み」だったと思う。聞いたことのある名前の選手がひとりかふたりいた。
だが、第6試合が「蛍光灯デスマッチ」となっていて、プロレス初見客はそっちが気になっていた。それゆえに、気もそぞろで 休憩もしちゃったし 第5試合は誰が何をしてどうなったのか、あんまり覚えていない。試合自体も、第1~第3と比べて多少技がエグくなった感じがしたが、基本的に同じに見えた。
で、第6試合で蛍光灯デスマッチがあって、全日程終了した。
帰りの車の中でちょっと分析してみた。
なぜ、客は冷めたのか?
思うに、第1試合~第3試合は、どの試合も洗練されて見えたが、非常に似通っていた。立ち上がりの腕の取り合い、バックに回ってハンマーロックからヘッドロック、首投げからグラウンドへ、それをヘッドシザースで切り返す……全試合で見られた動きである。
そういう意味では、良いレスラーとはやはりパーソナルな魅力を持つレスラーのことだと思う。100の技を知ってるより、ギロッと睨む力で観客に殺気を感じさせるとか、そういうのだ。殺気まで行かなくても、負けん気とか、ジェラシーとか、そういうものでもいい。
そういえば感情表現もみな似ていたように思う。
攻める側の
「くそー」
「おらー」
喰らう側の
「うおー」
「がはー」
プロレスでは「セール」というけど 相手の技を喰らった時のリアクションに関することだけど 何か、画一的だった。
なんでもかんでもセールが大きいと、その技がほんとに効いてるのか分からないし、ここぞという時の技のインパクトが薄れてしまうと思う。また、頻繁に表現するとレスラーの強さが感じられなくなる。
ちなみに一人、セールが無いなあという感じの選手がいた。バシバシ喰らっといて無表情で、実際その時お客が静かになった。相手がメチャクチャ弱く見えてしまう。
リングに人を叩きつける音についても、何かもったいなかったかもしれない。
第1試合から大技が出て、会場にバーンと音がした。音は一回聞かせてしまったら観客の中に刻みこまれる。それ以降の技はもっと大きな音にしないと客は驚かない。試合数を経ていってその日のトリの試合の頃には、いったいどんな音をたてればいいんだろう。
むかしある団体では前座試合は投げ技やドロップキックは禁止だったという。またある団体はマットが二枚敷いてあったという。後者についてはその団体のエースが投げられるダメージを嫌ったのではないかと言われているが、意外に「消音効果」を狙ったのかもしれない。
趣味で落語を聞くけれど、寄席はよくできている。
開口一番からトリまで、お客を飽きさせないでどう転がすか、ほとんどシステム化されている。
寄席の番組表を見ればわかる。落語と色物(手品や漫才、音曲など)を交互に入れて客の緊張感をコントロールし、「中トリ」で程よく締める。休憩後「食い付き」が緩んだ空気を戻し、「膝前」「膝代わり」最後に「真打」となる。
楽屋では立前座が、舞台に出た芸人のやったネタを書きつけておいて、あとの芸人のネタが被らないようにする。出る芸人も、次の芸人やトリの芸人のことを考えて自分の役割を果たす。みんなでトリまでの空気を盛り上げて、お客さんに「ああよかったね^^」と帰ってもらうようにできている。
なんだかほとんど苦言のようになってしまったけど、今日久し振りにプロレスを観て、良い選手がいっぱいいると思った。やっぱりレスラーはすごい! 誰でもできることじゃないですよ。身体を作るだけじゃなく、動けた上に、相手と戦いながら観客をコントロールしなきゃならない。まさに八面六臂。
また行きたいと思いました。
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