はじめに言っておくけど、ホントに行ったのは7月2日である。せっかく行ったんだから忘れないように書いておくノデアル。
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基本、混雑した大浴場にいくのは嫌だ。
裸のおっさんというのは、同性ながら見た目にキモチ悪いし、筋肉がムキムキしていて怖い。同属嫌悪というとなんかちょっと違うかもしれないが、もしかしたら自分もああなるかもしれないと思うと、よけい目を逸らしたくなる。
んで、原則として温泉には平日の昼前、あるいは昼下りにいくことにしているのだけれども、この7/2は日曜日にもかかわらず、湯を求めて家を出た。
なぜなら、ゆうべの酒を抜きたかったのだ。
こういう温泉の使い方は、たぶん一番やっちゃいけないんだろう……けど、ま、若いうちの特権だ。無論すでに酔いは無かった。ただちょっとなんとなく頭が重かったくらいである。
向かったのは重富温泉というところ。
鹿児島市の中心部から車で30分~40分くらい。国道10号線から細い道に曲がり、住宅地を縫うように走っていたら、ぽっかり広いところにでる。平屋の瓦屋根の建物が2、3棟、無造作に建っている。それが重富温泉だ。
暖簾をくぐるとキュートなおかみさんが番台にいて、湯銭を払う。
脱衣場に入る。木造でやや古ぼけているが、明るい。棚に脱衣籠が並んでいる。キーのロッカーではないから貴重品は番台にあずけねばならない。服を脱ぐ前に引き返して財布をおかみさんに 。
あとでこのことが銭湯シロウト丸出しの結果を招くことになる。
湯殿へ向かう。
それにしても、やはり温泉は酒抜きのためにいくもんじゃない。ほぼ収まりかけの二日酔い、ただ頭が重いだけかなと思っても、やっぱり足腰はどこかフラついている。自分ではしっかり歩けていると思っても、神経はまだなんとなくボンヤリとしているのである。
案の定、湯殿に足を踏み入れてすぐ、タイルで滑ってスっ転び、尻から落ちて大の字になった。素っ裸でコケることの情けなさ、恥ずかしさったらありゃしない。奥のカランに頭を洗っている人が一人いて、大きな音にびっくりしたようだったけどシャンプーまみれで視られることは無かった。いや実にお恥ずかしい。
でもまあ、滑るわけだよ。ここの泉質は非常に上質で塩味白濁。それがタイルにかけ流しで溢れているわけだから、床までツルツル滑らか。身をもって泉質を証明した格好である。
重富温泉は内湯と露天風呂がある。内湯は横長で電気やら寝湯やら。源泉かけ流し。実に好い熱さだ。露天風呂はその日は激ぬるだったから2秒つかって出たけれども、居合わせた人に聞いたらいつもはこうじゃないらしい。そういうわけで内湯にばかりつかっていた。
グングン酒が抜けていったね。
実は最初にスっ転んだ時、左の上腕に大きな痣をこしらえてしまっていた。これは治るのに長くかかるだろうと思っていたが、さすが温泉である。打ち身・擦り傷に効能があるのか、しばらく湯につかっていたら、ヒリヒリする程度で痛みはでなかった。グロいほどに紫ばんだ内出血も、翌々日にはほぼ消えた。温泉ってすごいなあ。
さて、酒も抜けたし十分湯を味わったので脱衣場に戻った。身体を拭いて着衣し、さて髪を乾かそうと、鏡の前のドライヤーに手を取った。よく見ると、コイン投入口付きの電源装置がくっついていて、3分10円也と書いてある。私はクセっ毛なので入浴後はすぐに乾かさないと、あとが大変だ。ようし、10円10円……。
そうだ、財布は番台にあずけたんだった 。
ここが銭湯シロウトの哀しさだ。巷の銭湯を見渡すと、コイン式ドライヤーのところは結構存在する。来た時に確認しておかないと、後でこういうことになる。貴重品は預けても10円玉の2、3枚は持っておかなきゃならない。
しょうがないからひとまず扇風機で軽く乾かす。
脱衣場を出て番台のある玄関フロアへ。財布財布。ところが番台にこんな書置きが。
家族湯の掃除をしています。
御用の方はしばらくお待ちください。
フロアは扉が開け放してあり、エアコンも掛かっていない。で、こちらは身体の芯まで温もった後だから、汗が拭き出すゝゝ。も一度湯殿に戻りたいくらいである。
しばらくすると、おかみさんが戻ってきた。
すいません、すいませんと繰り返しておられた。汗だくで困ぱいの様子だ。きっと掃除は大変なのだろう。謝る事なんかありませんよと心の中で声を掛け、財布を返してもらった。ホントにキュートな方で、なんかもう、頑張ってくださいと、それだけだ。髪を乾かすのなんかどうでもよくなった。
重富温泉の横には、軒を連ねるようにして居酒屋とギャラリーが併設されている。居酒屋はランチもやっているとのこと。カラオケの看板も出ている。きっと地元の方々の憩いの場なのだろう。外から見たら、ひとりの爺様が椅子に座って熱唱していた。これは福祉だ。まさに福祉だ。
ギャラリーには瀬戸物やら何やらが所狭しと置かれていた。そこで温泉のご主人らしき人に会い、いろいろ話を聞いた。ランチはワンコインからやってるよ、ギャラリーで骨董のセリをやったりするよ、などなど。
「カキ氷もやってるよ」
ご主人はそう言って表のブースを指さした。駐車場を挟んで向こう、敷地の端っこに人一人が入れるくらいの小屋が見える。
「まるでテーマパークですね」
私は別れを告げ、駐車場の自分の車のところへ向かった。
車は、エコじゃないけどエアコンが利くまでアイドリングしていた。すっかり汗だくだったのでね。車内が涼しくなったのを見計らい、乗りこんで発進し、駐車場を出ようとした。
その時、ふと脇に目を遣った。例のカキ氷のブースに、主人の姿があった。こちらを見て、ニコっとほほえんで……さっきの会話って、もしかしたらお誘いだったのかもしれない。
車中、思わず、
こ、今度来た時は、カキ氷いただきます。
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