きのう、行きつけのカウンター居酒屋さんで一人で飲んでいて、何気なく自分の手の平を見たところ、しばらく見ないうちに随分手相が変化していて「おっ」と思い、見とれていた。
その様子を見たママが「あらどうしたの?」と言うから「いや~手相が変わってね」と答えたら、カウンターの向こう側にいた酔っぱらい爺が
「何? 手相! 観てやる! エェ観せろや!」
と乱暴に声を飛ばしてきた。
見た感じ60過ぎ。さっきから威勢がよく、連れの若者に向かって何やらワアワアでかい声を上げていた。それで私も、
絡まれたらメンドくさそうだなぁ。
と、できるだけ目を合わせないようにしていた。
だが、捕まってしまった。やれやれ。
激酔爺が言うには、彼は二〇年来の手相観で、講習会を開くほどのお立場なのだという。
「何しろ今までに一〇〇人以上をみてきたからな!」
爺は自信満々にそう言った。正直「少なッ!」と思ったが、どうなんだろ? わからん。
爺は私を自分の近くに呼び寄せ、腕を出せと言った。言われるままに差し出す。爺は私の左右の手をむんずと掴み、しばらく見ていたが、やがてフンッ!と鼻息し、私の左手を投げ棄てるように放った。私の左腕は打ち捨てられ、ブランとなった。少々カチンときたが店の空気を壊したくない(なにしろ四年間週一で通っている)ので、我慢ガマン。
次に、爺は私の右手を観た。爺は凝視したまま固まってしまった。「こりゃあ何かあるのかも」と私がうずうずしていると、爺、
「こんな手相、なかなかないぞ!」
そう言ってキラキラした目で私を見た。彼はスマホを取り出し、私の右の手の平をパシャパシャ何枚も撮りだした。店にいた他の客やママも、
「ああ、彼の手相はたぶん超絶ラッキーなのね」
と憧憬の目で私を迎えた。
私も、ややドキドキし
「どんな相なんです? 金でも入るんですか?」
と尋ねる。すると、
「いや。入らん。女性なら成功の相だが」
「ありゃあ。じゃ、どんな事が分かります?」
「おまえは非常識だ!」
ハ?( ゚Д゚)
「おまえ、日頃から常識ないだろ」
「いや、そんなことは」
「あたりまえだ。常識のない奴が、自分に常識あるかなんて分かるもんか」
じゃあ訊くなよ。
皆さん、ここで自分の手相を確かめてほしい。
爺の言うには、生命線と頭脳線の間が離れているのを「離れ型」と言い、その相の持ち主は非常識なのだそうだ。私のはそれが一センチくらい離れている。両手とも。
かなり重症なんだとか。
「こんな相、初めて観た」
爺はそう言った。私自身、実は気になっていて何人か見たことがあった。確かに少ないけど、一〇人のうち一人くらいいるもんだ。
でも、一〇〇人観たというのであれば、一〇人くらいはあったはずだと思うんだが……。
その後、爺はワアワア行って帰った。店ではその後、私の通称が「非常識」になったのは言うまでもない。
ま、健康・長寿は保証されたからいいかな。
でも非常識のまま長生きするのも考えモノである。
- 作者: アヲイ
- 出版社/メーカー: さくらノベルス
- 発売日: 2015/05/24
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る