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創作に許しを求める私の瓦斯抜きブログ

無責任落語録(37)「替わり目」

本日、わがふるさとで落語会が催された。とあるイベントのオープニング的なもので、わずか一席だが、出演は芸協の大御所・三代目三遊亭遊三師匠。御年80。めちゃくちゃ元気。定番の「ぱぴぷぺぽ」歌謡から古典落語「替わり目」を演じられた。嬉しかったので記念に書きます。。。

語には無数のネタがある。トリで演られる大ネタもあれば、軽くサッパリしたネタもあり、それぞれ寄席番組の中で必要な感慨*1を起こしてくれる。寄席で掛かる9割は滑稽噺だろう。滑稽噺も細分化したら様々だ。長屋噺、子供の噺、酔っ払いの噺、それぞれ色合いがあって面白い。

そんな中で、私だけかもしれないが、昔からどうも引っ掛かる噺がある。それが「替わり目」である。

落語を分類した時に、「酔っ払い」と「夫婦」の二つに重なる噺は案外と少ない。「風呂敷」と「替わり目」。これくらいではなかろうか。
この二つ、噺の構造が全然違う。「風呂敷」は二組の夫婦が罵り合ったりする展開のうちに、キチンと本筋に絡み合って、一つの意外な結末に結びついている。シナリオがしっかりしている感じだ。
だが「替わり目」はそうじゃない。エピソードはバラバラで、筋がいたずらに続いていく。根問のように中の要素を一個二個抜いたって意味は通じる。そもそも冒頭の俥屋の部分だってなくてもいい。
たぶんこういったことが、私に引っ掛かりを与えているのだろう。聴いていると、どうにも落ち着かなくて、寒々として、軽い笑いの中に暗さすら感じるのである。

 

わり目の大筋は専門サイトを見てくれ。この噺の主な笑いどころはこんなところだ。

  • 泥酔男、自宅前で俥に乗ってしまう。
  • 車賃を断る車夫に妻が強引に金を払ったのを見て、夫が言う。「いくら稼いでも足りねえと思ってたらお前が俥屋に渡してたんだな」
  • 夫「外は外、家は家、私の御酌じゃお嫌でしょうが~と言やあ、俺だって飲まねえんだ」と言っておきながら、妻に言わせて酒を飲む。
  • 夫「主人は家長てもんだ。家で一番偉いんだ。区役所に聞いてみな」
  • お昼の残りを何もかも「食べちゃった!」と言う妻に、「いただきましたと言いなさい」。あとは「いただきました」のオンパレード。
  • 夫、おでんを略して「やき!」。なのに「ぺん」は分からない。

正直に言おう。

どれもこれも他愛も無さすぎる。駄洒落にもなっていない。

目先を変えればこれがこの噺の特徴とも言える。どのエピソードも大笑いや大きな納得はない。「お約束」の流れが多く、ほとんど「このノリはこういうオチになるんだろうなあ」と予想ができる。起こる笑いは可笑しくて笑っているのではなく、予想していた展開に「ほら当たった」とほくそ笑むという、自意識の勝利宣言みたいなものである。こみあげるのは、せせら笑い・薄笑いだけなのだ。

このように一種独特の笑いを醸す「替わり目」は、実は寄席の定番で、多くの演者に掛けられるうちに、かなり姿を変えてきた。現在の形は五代目古今亭志ん生の型だろう。最後まで演じず、夫が妻への感謝を歌い上げ「元帳を見られちゃった」と下げる方式は、ユルユルなネタをパリッとした人情噺に仕立てている。しばしば「志ん生の実生活とオーバーラップする」と言われるが、たしかにその辺のリアルさが「元帳」という単語のチョイスに滲んでいるように思われる。*2

「夫婦」ということを念頭に考えると、この噺の見え方はまた違ってくる。夫婦は長くいればお互いの考えていること・やりそうなことが分かる(という)。きっとこの噺の夫婦もその境地に達しているのだと思われる。先回りして分かる「お約束」な展開も、双方ワガママ剥き出しのやりとりも、相手のことを熟知しているから成立しているのだ。個々のエピソードはそれぞれ別個の笑いの種ではなく、どこを切ることもできない一連の流れとして、そのままリアルな夫婦の描写なのである。

席で「替わり目」が演じられる時、客席は冷笑につつまれる。大笑いがない  すなわち客は疲れない、緊張もない。客席はフラットな状態になる。次の演者は軽く温まった高座でのびのびと演じることができるだろう。そういう風に考えたら、他に代わりのない噺と言える。ネタの名前の由来は、もしかしたら「寄席の空気の替わり目」なのかもしれない。

 

いやあ、遊三師匠、素晴らしかった。久しぶりに生高座に接しました。やっぱりいいですね。本物の芸人さんと出会えるだけで感激します。芸人さんの見事な芸を見ていると、笑いのうちにも「嗚呼、日頃から努力をされているんだろうなあ」と思います。私も芸を磨かなくては。とにかく原稿に向かいましょう。タダで出来るからってAmazon PODにうつつを抜かしていてもしょうがない。何を先置いても、新作をすすめないといけません。

目下進行中のNZP(仮題)は、三分の一くらい進んだところで、原稿用紙100枚くらい。結末がまだおぼろげなので、いろいろ不安です。

以下宣伝 。ご通読ありがとうございました。

*1:落語は必ずしも笑わせるだけではないからこのような表現を取っている。

*2:元々志ん生は「元帳」という題で演っていた。

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