アヲイ報◆愚痴とか落語とか小説とか。

創作に許しを求める私の瓦斯抜きブログ

はたらくということ。

何様

 人間はおぎゃあと生まれてすぐはまるで何もできず、親の助けがなくては死んでしまう。その後は学校に通ったりしてひと通り成長するが、いざ社会に出るとなると、これまたどうしようもない。むろん、学生のうちにスポーツや芸術関係で頭角をあらわしていたり、資格をとったりして、社会に出るための布石を置いていた人は別である。ほとんどのやつは、会社に就職する。公務員のことは、まあおいとこう。一般の企業に入ったケースで言いたい。
 若い人に「どうして働くの」と訊くと、「食べるため」という答えが返ってくる。若造が吐くと生意気で寸足らずだ。でもまあこんなのはいくらか理のある方で、中には「夢のため」とか「家族を養うため」とか。「え? 働くでしょ、普通」なんてのも。しあわせだな。
 食べるためという答えは、まちがっちゃいないだろう。でも、食べるための方法は、何も他人様の会社で働くに限ったことじゃない。猟でも拾い物でも乞食でも何でもして、自分で糧を得ればいい。でもこれにゃ知恵が要る。腕もいる。哀しいかな社会に出てすぐの人間は、ほとんどの場合自分で金を稼ぐ術をもってない。悪をはたらく胆力も知恵も器用さもない。オレオレ詐欺なんて考えたやつは、なかなかひとかどだよ。いかんこったけど。
 まあ、普通は他人様の会社に入って、その会社が打ち立てたノウハウに加担し、皆で売り上げをあげて、分け前としてお給金をもらうことになる。むろん雇う側もノウハウの維持と運営、拡大のために人が要るので手下を募集する。優秀で言うことを聞くやつがいい。俺ならそうする。どんなに人格的にいいやつでも能がなければ糞製造機だし、おもしろくても仕事ができなければ穀潰しだ。
 さて、てめえで食う術を持たない連中が、入社してしばらくすると増長して「やれ労働者は不当に搾取されている」だのなんだのと抜かすのは、聞いていて呆れ返る。食う術を与えてもらってるのに文句を言えた義理か。文句があるなら辞めてしまえと思う。
 どうしてこういう風潮になったのだろう。昨今の労使間のニュースなどを耳にすると虫唾がはしる。労働者の権利を喧伝する声は、まるで「雇用は労働者のためのもの」とでも言っているようだ。そんなことがあるもんか。雇用は市場の需要に応えるための企業努力の一つだ。必要とされる奴のみが必要とされるのである。必要とされない奴は諦めるか、必要とされる場所を探すか、さもなくば必要とされるように自らを変革すればいい。言っとくが、必要とされてる奴はその努力をしているんだぞ。御託屋は努力する前に足踏みをする。努力の覚悟があるかどうかで、もう勝負はついている。弱者? そんなのいない。そいつらは敗者だ。
 もうひとつまずいのは、労働者自体があまりにも物を考えないことである。耳障りのいい言葉にのせられ、そうか俺は守られるべき労働者なのだと、投票所ではあんまり賢くない党派の名前を書く。ノセる側も労働者の堕落を見切っているから、いろんなことをいう。だます奴らとなまける奴らが手を取りあって、いったい何ができるっていうんだ?

 今は親も教育もとっちらかっているから、口だけ達者で付け焼刃の知識ばかり振りかざす奴が巷に溢れている。いやんなるね。でも悟り世代はいいよ。この世代は寡黙だ。ダメなりに黙っててくれるのは、ヘンなガスが増えないからいいよ。

 

盗人野郎

 自分自身で金を稼ぐ術の無い人間が、食っていくために他人様の会社のノウハウにおすがりして数年も勤めると、莫迦でもやり方を覚えてくる。食うためのノウハウが身についてくるのだ。ここで「やれシメた!独り立ち」と、会社に退職願を叩きつけトンヅラをこくのは、立派な産業泥棒、下衆の所業である。
 考えても見よ。会社が自分で食う術もない人間を面接し、いくらかふるいにかけて「見込みあり」と採用し、投資同然の社員教育を施する。やれそろそろ一人前になったかと思ったら、忘恩にもケツをまくる……自分が雇う側だったら裏切者だと思うだろう。
 だが、状況というのはいろいろだ。会社というのは生もので、駄目になることもある。世間の動きについていけずにへこんだり、中から腐ってへたったり。その結果、会社が持っていた素晴らしきノウハウが消失してしまうのは残念なことだ。社会的な損失であり、文明文化の損失である。
 会社の価値はノウハウである。内にあっては食うためのノウハウ、市場にあっては社会に役立つノウハウ。良き企業の良きノウハウはこれを両方いっぺんに成し遂げるんだからすごい。そんな立派なノウハウが、生みの親である会社そのものによって朽ちて失われんとするなら、それは阻止せねばなるまい。そういう大義においてのみ、独立は許される。別の会社を立ち上げてノウハウを移植するとか、あるいは正当な手続きを踏んでノウハウの禅譲をうけるとか、多少敵をつくってもやる必要がある(円満な暖簾分けなら問題ないが)。
 一方で、ウチの会社はもう駄目だと分かっているのに手をこまねいて、戦国時代ばりに主君と討ち死になんてのは、これは愚の骨頂である。会社の倒産とともに人生を破滅する……実は案外多い。死んで会社の鬼になるだの、社長に拾われただの、誰それに恩があるだの、まるっきり美学、浪花節の世界である。沈む船からは鼠も逃げ出すってのに。そのくせ後になって保証だ未払い賃金だと声を上げる。てめえの目先が悪いからそんな目に遭うんだということは、どっか頭の中で感じておきたい。

 それにしても我が国の美学ってのは、ホント分からん。勧進帳忠臣蔵・西郷礼賛  。桜は散るから好いってやがる。なぜそうややこしい言い回しをしたがる。その前に咲かなきゃしょうがないよ。「咲くから好いね」でいいじゃないか。やっぱり散るのは見てて寂しい。

 

愛社精神

 愛社精神というのは危険思想で、社内でこれが連呼されるようになったら癌は全身に転移しているから、もうどこを切っても無駄である。立派な会社はそんなことを言わなくても社員同士に自然と紐帯が結ばれる。
 入ってすぐの社員に愛社精神をどうこう言うのはハラスメントである。逆に入ったばかりのくせに「ぼくには愛社精神があります」などと抜かすのは淫売の手口だ。もっとも本当に心酔しているケースもあるが、そんなのは勘違いであり、イワシの頭であり便所の扉である。可愛がっても変質者にしかならない。さっさとクビにした方がのちのためだ。我が国の国民性はたまにこういうことがある。その気になれば敵の戦艦に飛行機で突っ込む。
 我々がしばしば想像するような愛国心  国旗国歌はもとより、言語や血や国土や信仰にまでオールラブな心というのは、厳密には存在しないと思う。というのは、愛とは広範に網羅する感情では無いからだ。愛はロジックではなく、自我で贔屓で局所的なもの。愛社精神も同様だ。一緒に働く同僚、お世話になった上司、可愛い部下、こういった人たちとの日々の個々の交感が、時の経過とともに不可欠で大切な物に思われるようになる。これらひとつひとつが集まってイワシの大群のように一個の巨大な気持ちになったように思えるのが愛社精神なのだとおもう。オールラブなんてのじゃない。「あなたアタシのどこが好き?」「ぜーんぶ」「やーあー<(//v//)/」こんなのに限って後で箸の上げ下ろしまでムカつくようになる。そして別れる。「ここは好いけどここは嫌い」くらいがちょうどいい。「ここは嫌い」という発想はむしろ問題形成能力が働いているわけで、将来的な関係としてはいい傾向じゃないかと思う。

 もっとも一部の経営者は偶像崇拝じみた尊崇を要求してくる場合もある。経営者だって労働者同様である。必ずしもマトモとは限らないことを肝に銘じよ。

 

社員を辞めさせる術

 最近はあまり聞かないが、一時期は一家の大黒柱が「誰のおかげで食べれていると思ってるんだ!」とちゃぶ台をひっくりかえすシーンが、一つの定型であった。共働きの時代がきて減ったかもしれないけど、男の脳みそには本能的に支配欲求があるので、状況が適合するならいかなる場合でもこれを言いたくてしょうがないだろう。
 だがこれは裏を返せば非常に残酷な現実を突きつける。家族は男にこう言ってやれ。「誰のおかげで働く理由を与えてもらっているのだ」「誰のおかげで『やること』があると思っているんだ!」……。定年してすぐ死ぬおっさんの多いこと。人生、やることがないのは苦しい。誰にも求められず、つながりもなく、存在する意味もなく、ただ日々を無為に送る。労働には、食うために働くという大義名分があるものの、それだけじゃどこか虚しい。
 刹那刹那の欲望に身を任せていては人間は身が持たない。だから宗教は、即物的なパンじゃなく、主とか永遠の生命とか尊厳とか、腹の膨れない何か崇高な物を大事にせよとした。そうじゃないと人間が自分自身を持て余すと気付いていたのだろうね。
 人をダメにするには、お前なんか必要ないということを徹底して伝えることだ。会社を辞めさせようとして嫌がらせなんかすると、案外居続けるものだ。なるほど、鞭より無視が効果的である。
 まあ、仮に辞めたとしても、こんどは嫌がらせをしてた奴がやることがなくて持て余しちまうがね。

(とりあえずおしまい)

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