最近のお子達は、寿司というものは回って饗されるものと思っているようだ。回転寿司のことである。これだけメジャーになってしまったからには、もはや仕方がない。
「よし、今日はA寿司をおごってやろう」
「おお、あの立ちの寿司屋ですか!?」
いつの頃からか、回っていない寿司屋のことを「立ち」と呼ぶようになった。寿司屋と言えば回っているという後発の価値観が一般常識化してしまい、従来の寿司屋に対し敢えて「あの立ちの寿司屋」と呼ばねば理解されえなくなったところに、皮肉というか、哀愁というか。
かくいう私も回転寿司好きである。回転寿司には回転寿司ならではの楽しみ方がある。それでは私の回転寿司ルーティンをご紹介しよう。
まず入店すると茶をつくる。次に係りの人を呼んでおもむろにサラダ系軍艦とフライドポテトを注文する。それが届くと箸先でサラダをつまみ、時折ポテトを食しながら、エンガワだのシメサバだの、レギュラーネタを食す。レーンから取ることもあれば、頼むこともある。店員の口車に乗っておすすめという名の見限り品を食べることもある。ポテトに寿司に、東西ファストフードを一挙に楽しむ贅沢。たまらんね。
しかし、このことを語ると多くの人からお叱りを受ける。
「ポテトなんざ、マクOナOドに行け。お前みたいなのが行ってやらんから経営がやばいんじゃ」
「貴様は破門じゃ。はじめ淡白、二に青魚。貝でつないで、鰻・穴子かウニ・イクラ。赤身は山葵を味わう物。締めは玉で、酒は一合まで。これぞ寿司道じゃ」
「サラダ軍艦? ヘルシーなの?戦争好きなの?」
うるせぇ。いいじゃないか、どんな食べ方をしても。
私が「ポテト&サラダ軍艦 feat.寿司」というチョイスをするようになったのには理由がある。回転寿司の魅力は「安くで寿司気分」なんてチートなものじゃなく、食をコーディネートできることだ。すなわちその可能性を追及することが、真の味わいにつながる。こういったことは、何を隠そう私自身がかつて回転寿司職人としてレーンの内側に立ち、そこで回転寿司の最適用法を学んだから言えることである。ホントですよ。
寿司とは、それ自体では食の分類の一つに過ぎないが、回転が加わることで食文化となる。回転寿司の楽しみ方は千差万別だ。今回は、私がレーンの内側にいる時にまみえた「回転寿司名人」をランキングでご紹介しよう。時に驚くほどユーモアあふれる奇人たちの姿があった。
【5位から2位】
5位 シャリ半分
4位 四分の一握り
3位 キムチくれ
2位 なんでもマヨネーズ
【5位から2位の選評】
5位4位はイレギュラーサイズのオーダーで、回転寿司に限らず立ちの寿司屋でも見受けられる。
「シャリ半分」はなるべく多くのネタを食べたいから米で腹を膨らませたくないということらしい。御通家らしき人に多い。日本の食文化は米の甘味をいかに引き出すかが基軸にあり、そのためおかずは塩辛いものが多い。シャリを半分にすると、せっかく酢で引き出した米の甘みが減り、ネタのギラついた味ばかりが口に残るから、提供する側としてはあまり勧めたくない方法だ。
「四分の一握り」は小さいお子様のために一貫を十字に切って小さな寿司にしてくれというオーダーである。握った寿司を切ったら潰れてしまうので、ネタをあらかじめ1/4に切って小さな寿司を握る。回転寿司は一皿二貫、都合ミニ八貫である。鮪や鰤ならいい。子供なので注文は大抵玉子か甘エビ。いずれも海苔の帯を巻くのだが、これも8つやらないといけない。とりわけサビ抜きの甘海老の握りは激ムズ。寿司も気持ちもバラバラ必至だ。
3位「キムチくれ」は個人的に忘れられないエピソードである。私がかつて回転寿司店に勤め、昼の握りを任されていた時のこと。ある日、一台のバスが店の前に乗りつけた。ぞろぞろと入ってくる客たち。3,40人はいただろうか。言葉の感じから西の海の向こうの人たち。予約も無しに大挙して押しかけた彼らは、平日の昼前でまだ無人だった店内をほぼ全席埋め尽くした。
やがて、代表らしき人が店長に日本語でひと言。
「みんなにキムチ。醤油要らなイ」
店長がキムチは置いてないことを告げると怒り出すのなんの。寿司は醤油で食べる物です、日本にいらしたこの機会にぜひとお勧めすると、
「客が言うのになぜできないカー」
また怒る。すると怒りが感染したか、他の連中も喚きだす。正午になり一般のお客さんが来店しようとするが、店の異様な風景を目の当たりにし、スゴスゴ帰っていく。連中は30分以上喚いた挙句、何も喰わずに去っていった。店長は同い年の女の子だったが、その日は一日中更衣室のロッカーをぶん殴り続けた。酷い一日だった。
2位はいわゆる「マヨラー」という奴だ。サーモンやシメサバの握りに玉ねぎスライス&マヨネーズをオンするというのは、ままあるものの、これをあらゆる寿司にやってくれとオーダーしてくるのである。鮪でもイカでもエンガワでもだ。挙句「あ、マヨネーズここに置いといてください」。さすがに断った。が、後でやってみたら、結構何にでも合う。
そして栄えある一位は
1位 皿戻し
【選評】
汚いし、勘定は分からなくなるし、最悪のケースだ。子供が間違ってやっちゃうなら分かる。老人がやるのである。しかも確信犯的に。「ああ、わからんかった」とボケる振りをするのは可愛い方だ。「お客さん、やりましたよね」「何を証拠に」「見てたんですけど」「わしとは限らんだろ。不愉快だ!」騒ぎ立てたら最悪。周りのお客さんの空気が悪くなる。現行犯を取り押さえないと駄目なのである。また、取り押さえたところで非常に切ない。老人の過ちには哀愁が漂う。連行される後姿を見る他の客……「おいにいちゃん、俺が払ってやるから、堪忍してやりな!」そんなことを言う人は、さすがにいなかったが。
こうして5位から1位を振り返ると総じて「最悪な客ランキング」だなコレ。
さて、今回は審査員特別賞ではなく、私が三年くらいカウンターに立っている間に知り得た事実を披露し、おしまいにしよう。
美人には青魚好きが多い
美人の面相ってのはおおよそ知的だ。つまりDHA豊富なのかもしれないな。
はてさて。回転寿司はいまや世界中に蔓延しており、海外ではSUSHIイコールROLLINGなことは、おそらく間違いない。でもやはり寿司の祖国日本では立ちの寿司屋に頑張ってほしいな。こんにちでも回っていない寿司屋の暖簾をくぐることはステータスだし、まかり間違って連れて行ってもらったりしたら、翌日誰かに行ったことを自慢したくなる。それは普遍的な庶民感情だ。
ああ、寿司よ。今宵、我が夢に。
あ、たまには宣伝しよう。
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