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創作に許しを求める私の瓦斯抜きブログ

無責任落語録(16)「三代春風亭柳好」

学園コメディ無責任姉妹3:機械少年の憂鬱|奇譚・鮨とか博奕とか恋慕とか。【前篇】>の発売日が決まり、Kindle版の予約が開始されている。Kobo、BWも販売画面が出現し、とりあえず一段落、ホッとしている。

 4巻「孤高少女の放心」八月末を予定しており、二週間くらい前になったらまたいろいろお知らせを展開しようと考えている。

今回の無責任姉妹は、3・4巻を合わせて原稿用紙換算およそ370枚。1・2巻が400枚だったから、やや減っている。しかし執筆に要した時間は1・2巻の2か月に対し4か月で、倍近くかかった。苦労した感じは圧倒的に3・4巻の方が大きい。

 

てさて、長編原稿の推敲作業は、これはもういかに時間をかけるかである。文章のまずさのチェックもさることながら、ストーリーの辻褄が合っているか、未回収の伏線、著者の思い込みによる矛盾はないか。作品に客観性を帯びられるだけの時間をおかないと厳しい。他人に頼むのもいいだろうけど、昔からどうしてもそれができない。恥ずかしいとか協調できないというのではなく、「自分で書き上げた」という充実感が欲しいからだ。プロなら「何言ってんの」と否定するとこだとは、重々承知である。

私の推敲作業は単純にひとつきり。音読である。頭から尻尾までずうぅっと声に出して読みながら手を入れていく。声にすると誤字脱字や文法ミスにも気づく。あと、どうもリズムがおかしいところにも手を入れる。文章を論理だけでなく調子でもって奏でていく。そのためには音読が最良な気がする。

調子というのは非常に重要だ。というのも、どんなストーリーもヤマがある  ということはダレ場がある。そのダレ場をいかに読ませるかというのが芸の見せどころ。私の場合は、リズムを使って一気に読ませる方法を採用している(つもりだ)。書き手によっては「そもそもダレ場があるようなストーリーを編み出す方がおかしい」という人もいるかもしれない。でも、私にはそんな超絶ストーリー思いつかないし、ダレ場の詰め方が上手ければうまいほど、ヤマは確かに面白くなる。そういう意味でダレ場はむしろ必要だとすら思う。

 

語にも、リズムで噺を運ぶ技術がある。「謡い調子」である。落語全編を七五調かやや崩し気味で、全編謡いあげるように話しきる。こんにちそのような噺の仕方をする人はいない(ような気がする)。過去に有名な噺家では、四代目古今亭志ん生(鶴本の志ん生)、三代目春風亭柳好の二人があげられる。前者については伝承ばかりで録音もあまり残っていないのが残念だが、柳好はいくつかのこっている。

三代目春風亭柳好は、志ん生文楽圓生に比べるといまでこそそれほど人口に膾炙しない。けれども戦中戦後の大看板・金看板で、これほど客を呼んだ噺家はいないだろう。
とにかく高座は明るくて華やか。めくりが返って小気味よい「梅は咲いたか」が流れると、客席から「野ざらし!」「蝦蟇!」とリクエストの声が飛んだと言う。柳好は別名を「野ざらしの柳好」。上方では「骨釣り」と呼ばれる「野ざらし」は、土手の髑髏に酒を掛けたら夜にお礼に来たという、陰気な中におかしみを漂わせる噺なのだが、柳好が演ると一気に華やかになる。

ゆんべは十六、八の女がいたね~
 おかしな数え方をする、七はどうした~
  シチは先月流れた~

しかばねか~? あかばねだ~? 
 どくろだよ、されこうべ
  じ、ん、こ、つ、のざらしだ~。

極めつけは「サイサイ節」である。

鐘がゴンと鳴りゃ 上げ潮 南さェ
鴉がパッと出て コリャサノサ
骨が上がる サーイサイ
スチャラカチャンたらスチャラカチャン

柳好の「野ざらし」は自他ともに認める十八番。桂文楽が「あんな野ざらし見せられたら、あたしゃもう演れません」と封印し、三遊亭圓生が「香盤は私の上でもいいから落語協会に来てほしい」と言ったほどである。

 

ころがだ。柳好は評論家筋にはあまり好まれなかった。謡い調子一辺倒で人物描写というものがまるでないのである。先述の桂文楽も柳好を絶大に賛じる一方で「噺は全然うまくない」とキッパリ言っている。
果たしてそうなのか  常々「落語評論にはロクなのがない」と思っていた私は、改めて柳好のネタを洗ってみた。

ざらし/蝦蟇の油/居残り佐平次/二十四孝/大工調べ/たいこ腹/たちきり/

ハッキリ言おう。
下手だ
居残りなんて聞けたものじゃない。大工調べ・たいこ腹も同様である。単に筋を追っているだけというか、全編明るいままで抑揚や陰影がまるでない。まるっきりダレ場である。

一つ気付いたのは、酔っぱらいの描写が優れている。蝦蟇の油の後段や二十四孝にそれがよく出ている。二十四孝の「蚊を退治する法」は秀逸だ。二階の柱に酒を吹きかけておくと、蚊が上がっていって柱を舐めて酔っぱらう。そうしている間に梯子を外して蚊が下りてこれなくするという馬鹿げた話なのだが、その時の蚊の酔い痴れ方が良い。たぶん柳好自身、酔っぱらいを演るのは好きだったんじゃないかと思う。それくらい堂に入っている。
たちきりはラインナップの中では異色だ。嫌いではない。

 

んだけボロクソに言って、結局は嫌いな落語評論と同意見になってしまった。
だが、柳好はやはり偉大だ。名を遺す落語家には、必ず他の追随を許さぬ一品がある。

五代目古今亭志ん生黄金餅
八代目桂文楽明烏
六代目三遊亭圓生―妾馬
三代目桂三木助―芝浜

これらの中に、間違いなく「春風亭柳好―野ざらし」は入る。いや、これが入らないとウソだ。
柳好の評価は、正直言って難しい。芸人として客にうけるのは大切だ。だが表現者としてどうなのか。もちろん「謡い調子」だって超絶技芸なのは間違いない。だが……。

   *

リズムは大事だ。

そんな訳で、私は日々、自分の原稿を音読する。
ただ、原稿用紙400枚ともなると、修正しながらの場合6~8時間くらいかかる。喉はガラガラになる。しかもこの作業だけはどうしても分割してやりたくなく、頑張ってやり遂げる。ビールが旨い→太る。
ぶっ通しの発声で学んだこと。ダミ声は案外喉に優しく、長時間もつ。広沢虎造ばりの浪花節調や市場のセリのおじさんの声。あれには理由があったんだなあ。 

今日はこれまで。
次回の無責任落語録は「てれすこ」を取り上げます。

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