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創作に許しを求める私の瓦斯抜きブログ

無責任落語録(15)「青菜」

月末から8月初頭のどこかで、無責任姉妹の3をリリースする予定である。正式名称は<学園コメディ 無責任姉妹 3:機械少年の憂鬱 奇譚・鮨とか博奕とか恋慕とか。【前篇】>である。どうだ。ながいだろ。詳しくはこちらをどうぞ。

ライトノベル|学園コメディ・無責任姉妹

前回は1・2巻で一つの話が完結するようになっており、ために二つを同時にリリースした。今回も3・4巻で一つの話だが、3巻だけ先行販売する。おそらく、一か月くらい後の8月末か9月初頭に、4巻をリリースできるものと思われる。

無論、原稿は両方とも上がっている(初稿だが)。

 

んじゃ、なぜ同時リリースではないのか。
それは、4巻の表紙絵ができていないからである。

 

 

は自分で表紙をやっているのだが、まあ時間のかかることかかること。しかも上手じゃない。今回の3巻の表紙も、よーく見てほしい。眼鏡の女の子の上顎と下顎  まるでサバンナの草食動物のように左右にずれている。最近の子供は固いものを喰わないから顎が弱いとか。だったらこんなでもいいかもしれない。

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ほらね。

ついでだから言うけど、私の表紙絵は実によく計算(?)されている。PCで閲覧している方は、右の既刊の表紙をご覧いただきたい。1巻の割り箸を持つ少女、2巻の扇子を持つ少女、二つとも見事に肩を描くことから逃げている。3巻の眼鏡っ子も、太鼓と陣羽織で肩をみせていない。

女の子を女の子らしく描くには、肩と胸のしなやかな描写力が絶対だ。だが、元来絵描きではない私は真っ向勝負すると絶対ボロがでる。どエライ肩幅になったり、胸が地球ではない重力環境になったり。だから構図には非常に気を遣うのである。「んなこと言わなくっても、とっくにボロは出まくってるよ」という方、許して(T_T)

 

……目立てばいいんだよ、目立てば……筆文字とかさ。

 

を遣うと言う割にやっぱりおかしいのは、私の画力が「付け焼刃」であることを意味している。付け焼刃って、なんだろう。簡単に言ったら分不相応ってことなんだと思う。だが、自己弁護するようだが「まぐれ」「へたうま」「ビギナーズラック」というように、付け焼刃ながら何とも言えない風情を醸すという事が、あるにはある。子供が大人びたことを言ってその愛嬌が肯定される折など、しばしばだ。

 

語には「道灌」「青菜」「子ほめ」「くやみ」など、付け焼刃の滑稽噺がいくつかある。職人の八っつぁん熊さんが、女房やご隠居の教えてくれた付け焼刃の知識を披露してドタバタが起こるパターンは、落語の国の鉄板であり、寄席では必ず一つはかかるネタのジャンルだ。

今回はこの中から「青菜」を紹介したい。なぜ「青菜」かというと、私は最近、この話の根本的な部分に大きな嘘を見つけたからだ。王様の耳はロバの耳じゃないけど、それを思いっきりここで言ってみたいのである。付き合ってください。

いつもだったらネタの内容は「ぐぐってくれ」と触れないが、今回は一席演るつもりで以下に触れてみる。でなきゃ「嘘」に迫れないので…。

 

古典落語「青菜」◆

商家の庭。庭師が一通り作業を済まし、日陰で煙管をやろうとしていると、縁側に旦那が出てくる。

旦那
「植木屋さん。これからおまえさんのやってくれた庭を眺めて酒をやろうと思っているのだが、付き合ってはくれんかね」
庭師
「へい。酒といえば、あっしは浴びる方なんで」
旦那
「ときに植木屋さん、鯉のアライはどうかね?」
庭師
「へい。ああ、これが鯉、初めて喰いました。旦那、この下にある冷たいのは?」
旦那
「それは氷だよ。鯉が冷たいようにな」
庭師
「はあ、氷ですか。は、冷てえ!」
旦那
「時に植木屋さん、菜は召し上がるかね?」
庭師
「菜? ああ、おひたし。いただきましょう」
旦那(家の奥に向かって手を叩き)
「これ、奥や。植木屋さんがご所望だ。菜を持ってきなさい」
奥方(奥からやってきて)
「旦那様、“鞍馬から牛若がいできて、その名も九朗判官”」
旦那
「……ああ、そうか、ならば“義経にしておけ”」
庭師
「おや、来客ですか? あっしは帰りますよ?」
旦那
「いやいや、違う。おまえさんだから言うが、今のは我が家の符牒だ」
庭師
「符牒?」
旦那
「合言葉じゃ。奥は台所をみて菜は食べてしまったと気付いたんじゃろ。だが、客の前で『菜は食べてもう無い』と言うと格好がよくない。そこで合言葉でわしに『菜が無い』ことを伝えたんじゃ。“その『菜』は『喰ろう』判官”とな」
庭師
「ははあ。この家はやっぱり違うなあ。奥方様も教養がおありだ。よし、うちでもやってみよう。じゃ、ごちそうさまでした! ……おい、おっかあ!」
女房
「なんだい? どこのたっくってんだい? このデコボコめ。イワシ焼いたよ。さっさと食っちまいな!」
庭師
「うわ、ひでえ。奥方とは大違いだ。お前にはこんなことは言えるか? 実は今な……庭師がお酒をご馳走になって、菜の符牒を聞いたことを言う)
女房
「へん! くっだらねえ。言えるよ!」
庭師
「言いやがったな。……あ、アイツ(友人)がきた。いまからアイツに『その名も九朗判官』のくだりをやるから、てめえは奥の間に引っ込んでな!」
女房
「ウチには奥の間なんてないよ!」
庭師
「押入れにへえっとけ!……これはこれは、よくいらっしゃった」
友人
「何だ気持ちわりい……酒? くれるのか? よく冷えて……冷えてなんかねえじゃねえか! ああ、ぬる! ……え? 鯉のアライ? 大層なもんがあるな……って、これイワシじゃねえか! バカにするない!」
庭師
「時に、菜は食べるか?」
友人
「俺は菜は嫌いだ!」
庭師
「いいから食うって言え!」
友人
「ったく、なんなんだ? 分かったよ。喰うよ」
庭師
「そうか、ご所望か。これ、奥や」
友人
「うわ、押入れからカカアが汗だくで出てきやがった! 大丈夫かい!?」
庭師
「こちらが菜をご所望じゃ。持ってまいれ」
女房
「く、鞍馬から、牛若が、いできて、そ、そ、その名も九朗判官、義経……」
庭師
「うッ……弁慶にしておけ」(サゲ)

 

早い話が、庭師が商家の旦那の符牒を真似て家で試したところ、女房がウッカリ「義経」まで言ってしまったために、苦し紛れに「弁慶にしておけ」とケツをまくるという、サゲが「?」な話である。

同じ付け焼刃の「道灌」は「歌道に暗い→暗いから提灯を借りに来た」、「子ほめ」は「どうみてもタダそこそこ…」など、まだ噺とサゲの辻褄が合う。にもかかわらず、中途半端を否めない「青菜」がいまだに絶えず演じられるのは、ひとえにリズムがいいからだと思う。寄席では、落語家が次の演者につなぐ場合、大爆笑になってはまずいことがある。そういう時は軽い噺でさらりと笑わせて「お後がよろしいようで」とスッと下がる。「青菜」は後の演者のやりやすい空気を作るには、ちょうどいい話かもしれない。自己犠牲的で粋な演芸論である。

 

師の付け焼刃という点に、これ以上説明の必要はない。私が言いたいのは、この話の中に潜む「大きな嘘」だ。気を付けてほしいのは、序盤の旦那とのやりとり。

  1. ご隠居が酒を飲む時間帯に、鯉のアライがあって、その下に氷まで敷けるような大家に、青菜のストックが無いという事があるだろうか?
  2. 「その『菜』を『喰ろう』判官」という符牒は、青菜を切らしていることでしか使えない。他のものを切らしていた時にもそれぞれ別に符牒があるのだろうか? 鯉のアライは? 米は? 味噌は? のりたまは? ……そんな符牒だらけの家がありうるだろうか?

たかが落語に重箱の隅を……」と仰られるかもしれない。だが、趣味とはいえ文筆に悶えることのある身としては、こういった異常なリアリティには敏感にならざるを得ない。
私は最初、この話は「三題噺」なのかと思った。即席だからおかしいところがあるのだろうと。しかし調べてみると、上方発祥の古い噺だった。

百歩譲ってこの噺に抜かりがないという前提で解釈するなら、次のように考察するしかない。

この商家では「この菜を喰ろう判官」→「義経にしておけ」のくだりをやりたいがために、庭師に酒を出し、鯉のアライも出し、氷も出す。そして庭師の満足が最高潮のところでこのくだりをぶちかまし、「ああ、旦那の家は洗練されている」という思いが増幅されるように演出している。嫌な家だ。

もしかしたら、旦那もこの話を別の家で聞いたのかもしれない。だとしたらこの人も付け焼刃である。だって私に見抜かれてるもん。庭師の付け焼刃は、奔放のあまり突き抜けて愛嬌がある。が、こちらは一見ぬかりがないために愛嬌がなく、不快だ。

   *

は成長しようと思ったら、ちょっと背伸びをしなきゃならない。筋肉のトレーニングもややの負荷をかけるものだ。しばしば芸論で「真似から入れ」というのは、すなわち付け焼刃でもいいからやってみろという教えであると言える。私のイラストはまだだいぶ「弁慶にしておけ」かもしれないが、かといって旦那みたいな小賢しさは好みじゃない。いずれにしても、目立つ絵を描いて多くの人の目にはとまりたいものである。寄席ではあるまいし次に演者などいないので、それはもうドッカンと。

学園コメディ 無責任姉妹 2: 漆田風奈、逆上ス。 (さくらノベルス)

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